MarioPamuk’s diary

海外文学と学術書の短文感想&忘備録

Entries from 2021-05-19 to 1 day

「善悪の彼岸」

フリードリヒ=ニーチェ著 ドイツ哲学者 善悪には基準が要る 近代までその基準は宗教だった 従って異教同士は争いやすい だが善悪の基準が科学になる現代 経済格差が最大の壁となる ”神は死んだ” また行き過ぎた科学から弱肉強食なヒトラー誕生をも予言 皮肉…

「ロシア正教の千年」

ビザンツ帝国滅亡と皇妃ソフィア降嫁でコンスタンティノープル総主教から第3のローマを継承したロシア正教 カトリックと異なり国家宗教化した為ロシア史の英雄に肖る点も多い 無宗教国家ソ連に迫害されたがロシア共和国の現在はプーチンが愛国主義に利用し少…

「郵便配達は二度ベルを鳴らす」

ジェイムズ=マシュー=ケイン著 アメリカ作家 ハードボイルド小説の嚆矢 短くテンポ良く明快なサスペンス 女に唆され夫を殺し横取りを企む男 だが判事や保険調査員に利用され保険金争奪戦へ 時は世界恐慌時で大量失業者と移民法など民族差別が酷い時代 結局…

「ニーチェからスターリンへ」

レフ=トロツキー著 ロシア政治家・評論家 マルクスは機械国家イギリスが社会主義化すると考えたが現実は農業国家ロシアが辿った ゴーリキー始めロシア大衆文学から海外のヴォルテール啓蒙思想の貴族社会まで幅広く理解し政敵スターリンも冷静に分析 スター…

「ドルジェル伯の舞踏会」

レーモン=ラディゲ著 フランス作家 不倫はダメだが不倫小説は面白い 男女の心理戦が前提だからだ しかし本著でははっきりした愛情表現は皆無 だからこそ言語化し難い恋愛感情を逐一の行動分析描写でよりリアルに映し出す 恋愛論が達者な人はコレが得意 渡部…

「タタール人の砂漠」

ディーノ=ブッツァーティ著 イタリア作家 そのリアルかつ淡白細緻な文章から”カフカの再来”と言われる 自然も敵襲も生活も正に無味乾燥的なイタリア国境防衛地 通称”タタール人の砂漠” 30年も来やしない敵に怯え時間だけが過ぎる日々を幻想的表現で描写 同…

「消えた心臓/マグヌス伯爵」

モンタギュー=ジェイムズ著 イギリス作家 聖書・写本文献学者ながら燦然と輝く古典怪談作家たる所以は偏にその圧倒的な博識ゆえ 厨二っぽいゴシックホラーも歴史用語で盛り付ければリアルに思えてくるから不思議 まず恐怖をチラ見せし一度安心させてから一…

「ほら吹き男爵の冒険」

ゴッドフリート=アウグスト=ビュルガー著 ドイツ作家 ゲーテと同じ“疾風怒濤”時代の童話 実在するミュンヒハウゼン男爵がモデルでロシアやトルコを冒険するドイツ版ドン=キホーテ 過度なメンヘラの病名は”ほら吹き男爵(ミュンヒハウゼン)症候群”という ギ…

「スイカの種はなぜ散らばっているのか」

植物の生存戦略”種子” 植物は1個体が両性具有 そして光合成で自活可能な種にその生命力が備わる 世界最大の種ココヤシ 食べられる種アーモンド・コーヒー 油=栄養満点の玉蜀黍・胡麻・チアシード 2000年の目覚め蓮・豌豆 実は全てバラ科の梅・桜・桃・林檎

「この世界を知るための人類と科学の400万年史」

量子革命なくしてスマホも原爆もなし 科学は一部の偉人の世界ではなく人類全体で進化する 古代の磨製石器〜現代のAIまで蓄積された叡智の暦脈を鳥瞰 科学は無味乾燥な数字の学問ではなく情熱と夢ある学問 科学投資も教育投資も渋る日本政府こそ読むべし

「ペンギンが教えてくれた物理のはなし」

物理×生物=生態行動学 生物の進化は環境と運動で決まる 陸上の800倍も抵抗がある海中で最高時速120kmのクロマグロ 浮力の弱い淡水に適応し球形に進化したバイカルアザラシ 53日で世界一周できるアホウドリ 移動して夏だけを生きるペンギン 生態学研究のリアル

「武器よさらば 下」

アーネスト=ヘミングウェイ著 ノーベル賞アメリカ作家 武器と友と部下と祖国と別れスイスに亡命する男女 “さらば”の連続は人生そのもの出会いと別れを想起する 善悪を主張せず極めて中立的な視点と反戦文学ながら”戦争とは無関係な残酷のラスト” それは機械…

「武器よさらば 上」

アーネスト=ヘミングウェイ著 ノーベル賞アメリカ作家 ジャーナリスト出身らしく簡潔で力強くテンポ良いい文章に深い行間 英文法の教科書にも多用される”最もアメリカらしい作家” 第一次世界大戦イタリア戦線参加歴を元に戦争前後の人生を纏めた反戦文学の…

「チェ=ゲバラ」

アルゼンチン人にして”キューバ革命の英雄” 学生時代に中南米縦断と自分と同じ境遇を持つ医者ゲバラ(顔似てると言われた経験アリ) メスから銃に持ち替え南米からアフリカと革命に暮れた人生 ヒロン浜戦の成功はあれど実際は指導力も乏しく中央銀行総裁も挫折…

「絶滅野生動物辞典」

絶滅・絶滅危惧種120種を紹介 鳥類史上最多の50億羽が100年で絶滅したリョコウバト かつてライオン狩りが出来た中東 発見27年で絶滅した体長9mのステラーダイカイギュウ 幻の国鳥トキ 恐竜絶滅と哺乳類進化の6000万年前に孤絶し独自の生態系を持つ“東洋のガ…

「コサック」

レフ=ニコラエヴィッチ=トルストイ著 ロシア作家 コサックは地方地主で反乱者にも知事にもなる 風光明媚なコーカサスは53もの民族が山を隔て暮らす 都会に疲れた青年貴族が田舎に憧れて移住し恋や牧歌生活を経るも最後まで馴染めない タタール語やペルシア…

「スペードのクイーン/ベールキン物語」

アレクサンドル=プーシキン著 ロシア作家 エチオピア人ながら将校に成金した祖先を持ち肌も浅黒い 多民族化する当時のロシアを写実的に皮肉る表現こそ”ロシア文学の父”の由来 決闘・賭博・階級社会・西欧への憧憬 悲喜劇/自然派/ロマン派/国内海外と多彩に…

「汚辱の世界史」

ホルヘ=ルイス=ボルヘス著 アルゼンチン作家 美女がヤンキーに惚れる如く悪党は魅力的 “暗殺式部官長”吉良上野介 “荒野の狙撃手”ビリー=ザ=キッド “女海賊”鄭夫人 “闇の徴税請負人”モンク=イーストマン “黒人奴隷解放者兼売買人”ラザレス=モレル “主張…

「白夜/おかしな人間の夢」

フョードル=ミハイロヴィッチ=ドストエフスキー著 ロシア作家 シリアス話の多い著者には珍しくピュアな恋愛を描く「白夜」 変人を自称する男の葛藤とその解放過程を精緻に描く「おかしな人間の夢」 心理の深堀は他の著書と同じだが主人公が善人でも繊細な…

「スパイスの科学」

スパイスとハーブは同義語 香辛料獲得が新大陸発見に繋がったのは世界史の常識 防腐防臭・発汗・殺菌・香辛 “神は食物を創り悪魔が調味料を添えた” 実は葱や胡麻や紫蘇もスパイス 料理は科学 本書を読みスパイスの味や特性を理解し水溶性と油溶性とで使い分…

「バビロンの大金持ち」

世界1000万部のベストセラー 伝説の古代都市バビロン だが実は資源も緑もない砂漠 その栄華の理由を”お金の知恵と教訓”から学ぶ 原始経済なればこそ真髄が浮彫になる 全ビジネス書の祖と言われるだけある 金儲けは正義 節約して収入の1割を貯金へ 商売は信頼…

「ドイツ 町から町へ」

歴史・文学・経済に絡めドイツ72都市を紹介 学生時代に約30都市回ったが街歩きが1番楽しい国はドイツ 中世そのままの街並みと丁寧な文化財保護 経済活動と両立させているのがすごい ロマンティックでファンタスティックでメルヘンでゲーテで古城な街道達を脳…

「ミミズによる腐植土の形成」

チャールズ=ダーウィン著 イギリス生物学者 進化論で名声を得た男が一家総動40年も研究したのはまさかのミミズ 寒帯を除き全世界7000種存在し糞で腐食土を形成 その分解土は年間数百兆トンとで古代遺跡や化石保存にも寄与 “陸の珊瑚”の緻密かつ好奇心旺盛な…

「英国流 旅の作法」

“可愛い子には旅させよ” それが英国流 <旅(Travel)=能動的>から<旅行(Trip)=自発的>へ オックスフォードの看板学部が地理学部とは7つの海を制した英国らしい 古典教養イタリア巡遊グランドツアー 湖水地方への原風景ピクチャレスクツアー 愛国主義と汽車に乗…

「ヨーロッパ世界の誕生」

アンリ=ピレンヌ著 ベルギー歴史家 “マホメットなくしてシャルル=マーニュなし” イスラムの包囲とビザンツ帝国との断絶がゲルマンのローマ化を導きカトリック文化圏を形成 それまで同じ文化圏だった北アフリカ・地中海がイスラム化 その脅威からイタリアな…

「ローマの哲人 セネカの言葉」

皇帝に次ぐ地位を得た哲人セネカ だが同時に熾烈な権力闘争も目にし精神的な豊かさ重視のストア派に覚醒 上級国民など地位を剥ぎ取れば哀れなほど醜い人間も多い 金稼ぎに固執し道徳教育を怠って老害やパワハラが顕著な現50〜60代 “ゆとり世代”の柔軟なゆと…

「ビザンツ帝国」

ペルシアとの抗争 イスラムの防波堤 スラヴの移住 ヴェネツィアの略奪 1人を除き90の皇帝が簒奪・暗殺という千年帝国の歴史的意義は計り知れない 独自政策の数々 皇妃コンテスト・蚕生産・正教会・テマ制 “ビザンツ”は英訳で小賢しいや煩雑を意味する 権謀術…

「夜間飛行」

サン=テグジュペリ著 フランス作家 同名の高級香水があるほど有名な代表作 元エールフランス航空のパイロットならではの空の雄大さと恐ろしさを手に汗握る描写で表現 鳥の様に飛び街が蛍のように陸が地図のように鳥瞰できる飛行機 当時最先端のロマン溢れる…

「日本料理文化史」

料理は文化 500年もトルコ領だったギリシアに今モスクは1つもないがケバブ屋は有り余る程ある 僧食に始まり利休の”茶の湯”で完成した懐石料理 飯・汁→酒→煮物→焼物→吸物→湯物・香物→甘味のコース 魚介と米と山菜が中心の和食に上座下座の礼儀など懐石・精進…