MarioPamuk’s diary

海外文学と学術書の短文感想&忘備録

「欠落ある写本」

カマル=アブドゥッラ著
アゼルバイジャン古典学者・作家
15世紀テュルク英雄叙事詩「デデ・コルクトの書」
冒頭と結末が不鮮明な発掘写本を著者が想像補完
サファヴィー朝イスマーイール1世がチャルディラーンで戦死し王の影武者が君臨(史実では生存)
スパイ探索する審問官との対峙

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古典のリライトや付け足しは鉄板
だが欠落箇所を補完して虚構を加え且つ物語としても成功した作品は類例がない
古典や古文の能力も必要

謂わば彫刻「ミロのヴィーナス」の欠けた両腕を誰もが唸る完成度に仕上げた感じ

サファヴィー朝アゼルバイジャン民族キジルバシュ+黒羊朝+白羊朝が建てた王朝

「エバ・ルーナのお話」

イサベル=アジェンデ著
チリ作家
23連作短編集
同著者長編作「エバ・ルーナ」のスピンオフ
短編ながら数十年の期間を扱い著者得意のマジックリアリズムと相性が抜群
エバの話の形もキャラも「千一夜物語」のシェヘラザードを踏襲
南米社会の奇跡から日常まで多彩な人々を描く

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以下収録作

“2つの言葉”
“悪い娘”
“クラリーサ”
ヒキガエルの口”
“トマス・バルガスの黄金”
“心に触れる音楽”
“恋人への贈り物”
“トスカ”
“ワリマイ”
エステル・ルセーロ”
“無垢のマリーナ”
“忘却の彼方”
“小さなハイデルベルク
“判事の妻”
“北への道”
“宿泊客”
“人から尊敬される方法”

“終わりのない人生”
“つつましい奇跡”
“ある復讐”
“裏切られた愛の手紙”
“幻の宮殿”
“わたしたちは泥で作られている”

「同調者」

アルベルト=モラヴィア
イタリア作家
“同調”は恐ろしい
“圧力”が加われば尚更だ
少年編:13歳で銃殺
青年編:”同調”を装い世渡り
中年編:秘密警察となりパリで妻を持ちながら暗殺計画と諜報活動
戦後編:”敗戦国の残党スパイ”の末路とは…?
ピカレスク小説ながら人間の脆さも多面的に描く

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リアリズムは心境を微細に描く連続性を要求する

故に通常ピカレスクにしろビルドゥングスロマンにしろ断片的なコラージュとの組み合わせは難しい
モラヴィアはそれが出来る
だから短編も上手い

表情豊かな主人公は役者次第で映える
ゴダールが著者を好んで映画化する理由も多分これ
映画も鑑賞したい

「波との生活」

#一日一編
2作目
オクタビオ=パス著
ノーベル賞メキシコ詩人・作家・評論家
“女の波”に恋した”人間の男”のシュールレアリズム
擬人化した”波の女”の描写がfemme fataleで美しく妖艶
”人間の男”は波に群がる魚への嫉妬が無邪気で可愛らしい
自然描写は少ないが不思議と南国を想起させる

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「南部高速道路」

#一日一編
1作目
フリオ=コルタサル
アルゼンチン作家
再読
有名な短編
パリ行き高速道路で大渋滞
それが何ヶ月にも及ぶというマジックリアリズム
途中で食糧・物資配給の共同体が自然発生
交際→結婚→出産
死者と弔問
交代制仮眠
数多の出来事が渋滞中に起こり最後は日常に回帰

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「話の終わり」

リディア=デイヴィス著
アメリカ作家
“話の終わり”
それは作家にとって”作品の誕生日”
一杯の紅茶が呼び覚ます記憶を辿る旅
プルースト失われた時を求めて」と同形式
12歳下の男性への恋と嫉妬を風景心象まで精細に再現
アニー・エルノー「嫉妬」と同じ粗筋
“短編の名手”唯一の長編

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