MarioPamuk’s diary

海外文学と学術書の短文感想&忘備録

Entries from 2023-03-01 to 1 month

「そっと静かに」

ハン=ガン著韓国作家・詩人詩・エッセイ集散文的小説は完成度が低いとポエムと遇られてしまう為とても難しい川上未映子もそうだが日常的にエッセイをものす作家は詩を書くととても様になる音楽や歌の思い出から初恋まで反復と擬人法と体言止めが多く詩人の…

「女たちの沈黙」

パット=バーカー著イギリス作家“戦争は女の顔をしていない”ホメロス「オデュッセイア」トロイア戦争をリライト西洋文学は男2人の1女性争奪戦に始まる性奴隷・産む機械・婢女・巫女・看護師…戦争捕虜少女は口を噤む男に反抗できないゆえ会話文が殆どなく心境…

「影の王」

マアザ=メンギステ著エチオピア作家国際ブッカー賞最終候補ムッソリーニ指揮下イタリア軍によるエチオピア侵攻皇帝ハイレ・セラシエ亡命瓜二つの若者が影武者となり戦士を鼓舞するそれを支えた名もなき兵士と女性兵や看護者など”影の主役”と”裏の英雄”を丁…

「妣たちの国」

石牟礼道子著詩とエッセイと少しの短編「苦海浄土」で国家に宣戦布告した著者その裏には愛すべき故郷で水俣病に苦しむ人々と何より母がいた海洋汚染と後継者不足に悩む漁師西郷隆盛の戦いを見届けた祖母「百年の孤独」の様に熊本弁で語られる口承の歴史語り…

「ヴィクトリア」

クヌート=ハムスン著ノーベル賞ノルウェー作家詩作に耽る粉屋の少年ヨハンネス未来の城主たる令嬢ヴィクトリア幼くして惹かれ合う2人はしかし身分の違いで袂を分つ…やがて新鋭詩人は凱旋し2人は再会するだろうそれが愛の始まりだとは知らずにそれが恋の終わ…

「マカエンセ文学への誘い」

4人のポルトガル系マカオ人からなるアンソロジー特に150Pの中編“魅惑的な三つ編みの娘”が素晴らしい中国の中でも福建などは客家が多い香港や上海ですら100年弱だがマカオは500年ポルトガルに支配された独特な伝統と文化が息づいた一方で近代化の喪失を嘆き謳…

「遠くにありて ウルは遅れるだろう」

ペ=スア著韓国作家“はじまり”を想起する女”ウル”(古代オリエント都市名)場所も時間も主題も設定も曖昧な独特な作品記憶喪失(前向性健忘症?)した女性の幻想的な自分探しを3視点で描写3章とも殆ど同じ展開だが視点を少しズラし咬合させ共鳴と差異を炙り出す

「王道」

アンドレ=マルロー著フランス作家・文化大臣・冒険家・義勇兵バンテアイスレイ像の発掘と祖国献上を試みた著者の半自伝アンコール遺跡の大通り”王道”ジブチ港で出会う白人コンビはカンボジアを目指す密林・発掘・疫病・族長・先住民…白人視点の当時のアジア…

「満ち足りた人生」

キム=チュイ著ベトナム系カナダ作家・詩人半自伝幼少期ベトナム戦争でボートピープルとしてカナダへ渡った著者同情も多いが人に恵まれレストランも営めて学位も夫も家族も得た”満ち足りた人生”と語る細切れな各章題と文体が詩的ベトナム料理&文化が大量に散…

「もうすぐ20歳」

アラン=マバンク著コンゴ民主共和国作家ソ連寄り+アフリカ視点の「ライ麦畑でつかまえて」反米ゆえ潰されるイランやアフリカ諸国に無力ながらも憤る父子少年期〜20歳になるまでの心境を許嫁・家族・友人と確かめ合い大人になっていく有りそうで無い設定と精…

「マーメイド・オブ・ブラックコンチ」

モニーク=ロフェイ著トリニダード=トバゴ作家500年前に呪われて人魚になった美女先住民恋に落ちた男性は彼女を匿うが人間に戻り始め同時に災厄が島を襲う「老人と海」級の人間vs人魚の釣りシーン等の細部や奴隷制の闇を問う点がリアルなマジックリアリズム

「四書」

閻連科著中国作家国際ブッカー賞最終候補「新シーシュポスの神話」「天の子」「罪人録」「旧河道」4書物の記録千里眼の”こども”が農作業使役で知識人更生を行う特別区解放のため告発も棄教も強いられる専門家搾取と強制労働や焚書の末に大飢饉へ「蝿の王」×…

「資本主義と奴隷制」

エリック=ウィリアムズ著トリニダード=トバゴ初代大統領・歴史学者世界史上最大の負の遺産”奴隷貿易”近代世界システム論から資本主義的搾取実態を分析し喝破した画期的&先駆的な研究欧米列強の植民地化と現地伝統経済崩壊の過程を奴隷制の盛衰と共に中南米…

「不快な夕闇」

マリーケ=ルカス=ライネフェルト著オランダ作家・詩人国際ブッカー賞受賞作(処女作&最年少29歳)喧嘩中の兄に一時の感情で屠殺兎の身代りを願った妹氷穴に落ちて本当に兄が死去する宗教に一層縋る父母家を嫌悪し始める姉弟妹は2度と事件当日の上着を脱がず…

川上未映子全23冊読破記念総書評

詩と小説リズムと哲学性差と女体倫理と悪徳自意識と同調美人でお茶目な未映子さん二元論だけでない社会の白黒に分断されがちなグレーの領域を深掘りするボーヴォワール提唱から半世紀「第2の性」から共感と違和感の声を等しく掬う実行力と使命感が心を揺さぶ…

「ヘヴン」

川上未映子著国際ブッカー賞最終候補“ーわたしたちは仲間ですー”壮絶な虐めを受ける”斜視の少年”と”貧乏な少女”似た境遇の2人は次第に言葉と心を通わせ偽善的な加害者に牙を向けていくこの世界に意味なんてない天国も地獄も論理も同調圧力も無碍の境地に達し…

「おめかしの引力」

川上未映子著“おめかし”は女性のアドレナリン爆発を促すその日の喜怒哀楽を決める引力になる朝日新聞連載のファッションコラムを文庫化女性のお洒落の心理がこんなに複雑とは思わなかった…常にスカートしか履かない未映子さん当方ブランド品等の服や装飾に疎…

「みみずくは黄昏に飛び立つ」

川上未映子&村上春樹共著“聞き手”川上未映子“話し手”村上春樹刊行直後の「騎士団長殺し」の裏話をメインに村上春樹の創作世界と文体の真髄に迫る2人とも音楽・フロイト深層心理学が作品の核にある作家なので気が合う(当方もなんだかんだで読了数が多いハルキ…

「そら頭はでかいです 世界がすこんと入ります」

川上未映子著小説執筆前の売れない歌手時代のブログ集“こんなの誰が見るんだろう?”と思いながら毎日綴っていたそうその文才とリズムに本人と編集者が可能性に気付くそれが処女中編「わたくし率 イン歯 または世界」執筆の契機となった…泣ける話

「六つの星星」

川上未映子著著者と各分野著名人の対話×斎藤環(脳科学者)×福岡進一(生物学者) ※当時ノーベル賞未受賞×松浦理英子(作家)×穂村弘(詩人)×多和田葉子(作家)×永井均(哲学者)特に初期作風は詩と哲学と女性の身体性を扱っていた著者その一線で活躍する知識人から見…

「わたくし率 イン歯ー または世界」

川上未映子著1中編1短編“わたくし率 イン歯ー または世界”芥川賞候補作人間の思考を司るのは”脳”ではなく”奥歯”と考えた主人公“奥歯=わたくしの割合=世界”で好きな人を「雪国」の文体で哲学的に考えてみる“感じる専門家 採用試験”受胎告知妊婦の理想と葛藤

「すべてはあの謎にむかって」

川上未映子著エッセイ集時にゆるり!時にピーン!「ぜんぶの後に残るもの」「オモロマンティック・ボム!」「人生が用意するもの」ネットや紙面に連載された雑文と日々の記録愉快で優しい同時にこうして日常を観察したからこそ大衆文芸を書けるのだと思わさ…

短編コレクション個人的ベスト

「池澤夏樹=個人編纂 世界文学全集 短編コレクション」いやはや面白かった… 自分だったらこんな作品を選ぶなというリストを作成したくなった というわけで個人的ベストは以下です

「池澤夏樹 短編コレクションI&II」2冊39作品読破

#一日一編I…アフリカ・南北中米・アジア中心II…ヨーロッパ中心短編は基本的に少数のテーマを扱い無駄なく蒸留したワインと同じ故に作家の個性・人生・才能がよく分かるそれ即ち多様性であり未知への招待手軽に極上フルコースを味わえる傑作選

「ランサローテ」

#一日一編19作目ミシェル=ウェルベック著フランス作家“イスラムでもなく西欧でもない非現代文明に浸る旅行先ってありますか?”カナリア諸島の火山島ランサローテ独自の生態系と本島スペイン以外の多民族観光と移住が特徴そんな島すらカルトとセックスが蠢き…