MarioPamuk’s diary

海外文学と学術書の短文感想&忘備録

Entries from 2023-12-01 to 1 month

「ノーフォークにてわが椿事」

一日一編 イギリス怪談集 アラン(レスリー=ハリソン=ランバード)著 マジシャン・諜報員・短編作家・ラジオパーソナリティ・海軍 多彩な経歴と”1919年”の経験を用いた逸品 ノーフォーク農法発祥で有名な地で不思議な少女に出会う男 しかし街の人々の反応は…

「赤の間」

一日一編 イギリス怪談集 ジョージ=ハーバート=ウェルズ著 近代SFの鼻祖 「世界文化史」も物した衒学による科学も交えた怪奇譚 幽霊や憑物に怯える老人が呪われた部屋を調べていると”恐怖の根源”の正体が見えて来て…? 科学に詳しい人間が敢えて非科学的ホ…

「若者よ 口笛吹けば われ行かん」

一日一編 イギリス怪談集 モンタギュー=ローズ=ジェイムズ著 ケンブリッジ大学副総長・古文書学者・聖書学者・怪奇小説家 古代文字・古典・古代ユダヤ思想が登場する知的ホラー テンプル騎士団の聖堂跡の調査中に不気味な笛を発見してポルターガイストに遭…

「空き家」

一日一編 イギリス怪談集 アルジャーノン=ブラックウッド著 幽霊屋敷を噂される空き家に行かないかと叔母に誘われたら男 不可解な音や不可思議な風が吹く空き家を歩いていくうちに蝋燭の火が消えてふと叔母を見ると…? 具体的に名前を持つ恐怖を出さず不気…

「鳩の翼 下」

ミリーは甲斐甲斐しい庇護者ストリンガム夫人と社交界に打って出る 一方で彼女の病は悪化していく… 万華鏡の様に緻密な心理描写 打算とすれ違いは”水の都の迷宮都市”ヴェネツィアで絡みに絡む 迫る死の予感と募る生への撞着 富と美貌と行動力を持つ女性の魅…

「鳩の翼 上」

ヘンリー=ジェイムズ著 アメリカ出身イギリス作家 遺産相続で巨額の富を得たミリー 新聞記者デンシャー 魅惑の美女ケイト 寡黙でミステリアスな男マーク卿 ニューヨーク→ロンドン→ヴェネツィア… 華やぐ都会を渡り純白と純黒の混ざった翼を広げる”鳩”たち 美…

「ラーマーヤナ 下」

1少年の巻 2アヨーディヤの巻 3森林の巻 4キシュキンダーの巻 5美の巻 6戦争の巻 7後の巻 魔術使いインドラジットとの死闘 ランカ島で宿敵ラーヴァナを討つ 妻シータは拉致期間の不貞を疑われるがラクシュミーの化身と分かり大円団へ カーストや寡婦殉死の思…

「ラーマーヤナ 上」

ヴァールミキ編 古代インド長大叙事詩 王子ラーマはランカ(スリランカ)島の魔王ラーヴァナに奪われた王妃シータ救出を決意 猿神ハヌマーンの力を借りて猩猩と共に魔王打倒に立ち向かう ヴィシュヌ神のアヴァターラ(化身)となったラーマ モデルは3世紀に実在…

「百の影」

ファン=ジョンウン著 韓国作家 “美しい小説”は得てして”優しい”小説でもある 正しく”優美な小説” 実在の籠城事件がモデル 資本主義に毒され再開発を迫られるソウル某地区 日毎に高層ビルの影が増えていく 権力への怒りと市民への優しさに満ちた家と生活を奪…

「霧の中での遭遇」

一日一編 イギリス怪談集 アラン=ノエル=ラティマ=マンビー著 ケンブリッジ大学図書館フェローにして英国書誌学会長のエリート 曇天が多い事で有名なイギリス 登山中に霧が立ち込め五里霧中となってしまった男 善意から助けようとする自縛霊だが…? 博識…

「アメリカ怪談集」総書評

悪魔はいるが妖精はいない “固有の神話と歴史がない国”アメリカ ミステリ・SF・NYの摩天楼が発展した理由もここにあろう 実際ミステリとSF巨匠の作品も収録されている 怪談も科学・移民・宗教・民話・精神分析と多岐に渡る 宗教的説話よりオープンエンドの正…

「ディヴィッドの物語」

ゾーイ=ウィカム著 南アフリカ作家 アパルトヘイトは単純な黒人vs白人の問題ではない 因果・過程・加被害者・地理物理経済要因とカオス極まる 敢えてその”混沌”を前面に出しカラード(混血)を主人公へ イデオロギー抜きに多角的に問う事で南ア現代史の課題を…

「シカスタ」

ドリス=レッシング著 ノーベル賞イギリス作家 第三次世界大戦の果てに荒廃した世界が舞台のSF 当時の具体的な冷戦状況を模して痛烈に風刺 設定や時空間こそ大きく異なるがテーマは「黄金のノート」とも共通 第三世界の描写でもイラン生まれジンバブエ育ちイ…

「月を描く人」

一日一編 アメリカ怪談集 デビッド=ヘンリー=ケラー著 精神分析医の体験から近代SF小説を黎明期を現出 マクベス夫人コンプレックスなど具体的な症例に言及してある点は流石 精神を壊して月中心の絵を描く事に倒錯した患者の奇怪な体験 完全に近代が舞台の…

「吹きさらう風」

セルバ=アルマダ著 アルゼンチン作家 妻を失い娘と共に車で布教し寄付金で旅を続ける熱心な牧師 車の故障を通りがけの整備工が救う 修理中に整備工の息子に終末論や天地創造を説く牧師 警戒した整備工と牧師が衝突するが…? 狭く小さな人間関係に大きな人生…

「ほほえむ人びと」

一日一編 アメリカ怪談集 レイ=ブラッドベリ著 SF作家で有名だが初期は切れ味の良い大衆ホラー短編を手掛けていたという 毒母のせいで結婚も家庭もできず家族全員を家から追い出すと決めた男 最後に寡黙すぎた家族を”微笑ませなければ”と憤る男はナイフを手…

「死の半途に」

一日一編 アメリカ怪談集 ベン=ヘクト著 ジャーナリスト・編集者・シナリオ作家 幽霊や魔女などが出ないNYの都会を舞台にした怪奇小説の先駆 閉塞的な都会に幻覚・幻聴・幻夢に追い詰められて縊殺していく個人を描く現代的なゴシックホラー 主人公が辿る過…

「野生の棕櫚」

ウィリアム=フォークナー著 ノーベル賞アメリカ作家 “野生の棕櫚” ”オールド・マン” 2話が棕櫚の様に絡まり交錯し1つの運命となる物語 人妻と医学生の駆け落ち 妊婦を洪水から救う囚人 ヨクナパトーファでないミシシッピ(ケイジャン:フランス系)が舞台 対照…

「悪魔に首を賭けるな」

一日一編 アメリカ怪談集 エドガー=アラン=ポー著 江戸川乱歩/コナンのご存知元ネタ 友人と共に”異常に暗いトンネル”を潜り抜けようとする青年 “悪魔に首を賭ける”という失態から地獄を見ていくことになる… 序盤に神話や歴史のモチーフを散りばめて一気に…

「ハルピン・フレイザーの死」

一日一編 アメリカ怪談集 アンブローズ=ビアス著 フエンテス「老いぼれグリンゴ」主人公で「悪魔の辞典」著者でも有名なジャーナリスト出身作家ビアス 拾った本に載っていたハルピン・フレイザーとは何者なのか? フォークナーとはまた違う南部を描くサバイ…

「邪眼」

一日一編 アメリカ怪談集 イーディス=ウォートン著 自分には才能があると勘違いした若き物書きのパトロンになった男 彼は事あるごとに不吉の前兆として”邪眼”を目撃していた 苦しそうな彼の顔に同情し続け別れ際にレストランの鏡に映った自分の顔を見て思う…

「翼ー李箱作品集」

李箱著 韓国作家 13短編集 短編・エッセイ・随筆・詩・寄稿文・書簡・童話と多彩な作品群 韓国で最も有名なイ・サン文学賞は彼の名に肖る 27歳で日本憲兵に逮捕され客死するまでの身近な生涯 宗主国と植民地を冷静に分析した上で忍び寄る不穏の時代を切り取…

「物語江南の歴史」

“南船北馬” 華北は政治 江南は経済 中国河川40%を占める長江流域 ”南蛮から神州”になった江南の歴史 古代:楚→項羽→蜀 隋唐:運河網完成 元宋:人口増と文化革新 明:鄭和の南海遠征 清:天下を熟した湖広蘇湖 清末:革命と建国運動 現代:IT・金融・加工貿易・リゾ…