MarioPamuk’s diary

海外文学と学術書の短文感想&忘備録

Entries from 2021-07-01 to 1 month

「イギリス1960年代」

第二次大戦最大の”敗戦国”イギリス植民地と競争力を失う”イギリス病”で若者が新消費層として台頭“Rock’n’roll(性行)”ビート文学麻薬ミニスカボブカットチャタレー裁判ピル普及死刑廃止同性愛合法化訪れる新自由主義“The Beatlesからサッチャーへ”百花繚乱の1…

「ノルウェイの森 下」

村上春樹著心の傷は癒えても罅は元に戻らない元から”変わった子”だったのか?何かを失い”変わった子”になったのか?壊れゆく直子への想いを他所に別の女に射精せざるを得ないワタナベ報われるのが愛報われないのが恋人は脆く何かを愛し何かに恋しなければ生…

「ノルウェイの森 上」

村上春樹著“白夜”北極圏ノルウェイには陽が沈まない1日があるそこでは寒く仄暗い森の中で灯を求めて彷徨うしかない人生も同じだろうか?The Beatles「Norwegian Wood」がBGM幼馴染の恋人を亡くし壊れていく少女彼女に恋しつつも愛しきれない男愛に飢えた喪失…

「犬の心臓/運命の卵」

ミハイル=ブルガーコフ著ソ連作家パステルナークと同様に再評価が進むソ連独裁体制をSFや近未来設定を以て婉曲的に批判“犬の心臓”人間の臓器移植で知能を持った犬の下劣な行為と管理社会の恐怖“運命の卵”博士の発見した増殖光線で動物が異常発生し人と人工…

「スウェーデンボルグ」

スウェーデンの隠れ偉人スウェーデンボルグ王立鉱山局長結晶学開祖デカルト宇宙論・カント理性世界を先取りする哲学力飛行機・動力機の設計し発明する科学力突如覚醒した霊感と予知力神秘と科学を融合する先駆けとなったバルザック・ボルヘス・内村鑑三らに…

「コレラの時代の愛」

ガブリエル=ガルシア=マルケス著ノーベル賞コロンビア作家19世紀コロンビア初恋の女を51年も愛し運河会社で成功するも貞操を保つ男両思いながら経済的理由でコレラ撲滅医師と契る女だが倦怠に苦悩やがて未亡人となり再び結ばれる2人半世紀に及ぶ”コレラの…

「至福のとき」

莫言著中国ノーベル賞作家中短編5集“至福のとき”老境リストラ男が廃バスで売春宿経営“長安街のロバに乗った美女”清楚な美女と汚いロバの混乱劇“宝の地図”法螺喰う者が宝を喰い人喰う“沈園”円明園と珍園のすれ違う男女“飛蝗”蝗害で血染めになる閉鎖的農村と蝗…

「一人称単数」

村上春樹著8短編集やはり音楽に詳しくアメリカ大好き感が強め回想と現在の交錯はリョサっぽい“石のまくらに”“クリーム”“チャーリー・パーカー・プレイズ・ボサノヴァ”“ウィズ・ザ・ビートルズ With the Beatles”“ヤクルト・スワローズ詩集”“謝肉祭(Carnaval)…

「破壊者ベンの誕生」

ドリス=レッシング著ノーベル賞イギリス作家平和で幸せな夫妻と4人兄弟5人目“破壊者ベンの誕生”胎児期から激しく子宮を蹴り誕生時から悍ましい外見で忌避我が子と思えぬ憎悪に崩壊する家庭不幸は不運の連続主人公ベン以外の視点で語られる様は不気味な一方…

「水いらず」

ジャン=ポール=サルトル著ノーベル賞(唯一の辞退)フランス作家・哲学者肉体嫌忌の”実存主義”短編5集“水いらず”“壁”“部屋”“エロストラート”“一指導者の幼年時代”カミュと同列に語られる事が多いがより直情的に人生の意義を問う物語としての完成度も高く哲学…

「色彩を持たない多崎つくると彼の巡礼の年」

村上春樹著高校の仲良し男女5人組は名前に”色の字”を持つ“多崎つくる”彼以外は大学で上京直後に原因不明の絶縁を伝えられた”色彩を持たない男”16年後恋人に諭され過去の真実を巡礼する旅へ記憶と虚無の洗礼色など所詮は光の屈折輝き方は自分次第

「白い犬とブランコ」

莫言著中国ノーベル賞作家飢餓と孤独と貧困を土臭く描いた短編集魔術的リアリズム長編が代名詞の莫言だが短編も未開の農村が舞台“涸れた河”“洪水”“猟銃”“白い犬とブランコ”“蝿と歯”“戦争の記憶断片”“奇遇”“愛情”“夜の漁”“奇人と女郎”“秘剣”“豚肉売りの娘”“初…

「修道院回想録」

ジョゼ=サラマーゴ著ノーベル賞ポルトガル作家18世紀最大の富裕者ポルトガル王ヴァチカン以上のマフラ修道院建設に燃えるジョアン5世隻腕の夫と透視能力の妻は神父と近代気球開発で建設効率化を目指すが異端容疑で迫害され夢と愛が引き裂かれていく夥しい史…

「昼の家 夜の家」

オルガ=トカルチュク著ノーベル賞ポーランド作家“昼の家”意識“夜の家”無意識キノコと戦争のイメージフロイトの夢-意識-無意識の死生観精霊的リアリズムポーランド国境と心理学を土台にした101連作短編夢料理宇宙占い殺人神話聖人歴史無関係が関係し合う静謐…

「生きて 語り伝える」

ガブリエル=ガルシア=マルケス著ノーベル賞コロンビア作家“永遠の古典”を約束された作家の物語調自伝11人兄弟と貧しくも古典に親しんだ瑞々しい少年時代からジャーナリストへそして「百年の孤独」誕生秘話壊滅的な政治状況の中で”生きて語り伝える”ため生…

「フロイト 夢について語る」

ジークムント=フロイト著ユダヤ系オーストリア心理・精神科学者“夢分析”を巡る重要論文6集夢は昼の記憶整理と本質願望の延長テレパシーや正夢はこの積極的実現を意味する極めて現実的な現象また童話は夢の複製であり疑似体験正に人間は“夢の様な気分”を日々…

「ハーン=ハーン侯爵夫人のまなざし」

エステルハージ=ペーテル著ハンガリー作家オーストリア〜ブルガリアまでのドナウ川”歴史&文学”クルーズ!キシュ「見えない都市」のパロディ中東欧作家現代東欧史侯爵夫人と付き人が魔術的リアリズムで引導しドナウ沿岸都市とモザイク地域”東欧”を立体化 因…

「誰がパロミノ=モレーロを殺したか」

マリオ=バルガス=リョサ著ノーベル賞ペルー作家「緑の家」など過去作キャラ再登場でペルー社会の闇を暴くミステリ老木に串刺しにされ骨肉を抉られた死体誰が航空員パロミノを斬殺したか?飄々とキレ推理を進める一方で艶女に熱を上げる警部補の恋慕が絶妙

「青い鳥」

モーリス=メーテルリンク著ノーベル賞ベルギー作家“青い鳥文庫”の由来でもお馴染み世界中で読み継がれている童話作家の代表作クリスマスにチルチルとミチルがダイヤモンド付き魔法の帽子を携えて幸運の青い鳥を探す擬人化した炎や光も砂糖も語り手として参…

「フォークナー短編集」

ウィリアム=フォークナー著ノーベル賞アメリカ作家アメリカ南部が舞台のヨクナパトーファサーガ8短編集光のヘミングウェイ闇のフォークナー同時代同舞台の巨頭でこうも違う黒人差別は勿論インディアンや白人内格差も残酷人種に留まらぬ人間の暴力性を衒う高…

「見知らぬ島への扉」

ジョゼ=サラマーゴ著ノーベル賞ポルトガル作家難解で段落や文が1P超えも珍しくない著者の”大人のための童話”大人になると忘れてしまうこと大人になって思い出したいこと見知らぬ島などないポルトガル国王に少年は船を望む“見知らぬ扉”を楽しむ好奇心こそ今…

「林檎の木」

ジョン=ゴールズワージー著ノーベル賞イギリス作家自然と生命の描写が美しい田舎に療養中の青年は林檎の木の下で可憐な少女に一目惚れし婚約だが魅力的な上流女性を救い2人の女性を愛してしまう選べる女性は1人壮年した彼は今その選択を懐古する青春は甘酸…

「見えない都市」

イタロ=カルヴィーノ著イタリア作家“文学の魔術師”が送る歴史メタフィクション世界帝国の覇者クビライ汗最新研究では実在しないとされるマルコ=ポーロ2人が中世に噂された架空都市を語り合う55”都市伝説”寓意性+御伽噺+歴史=摩訶不思議”な見えない都市”幻…

「あまりにも騒がしい孤独」

ボフミル=フラバル著チェコ作家騒がしい日々に笑えなくなっていた“聞こえない叫び”それが孤独真に孤独とはあまりにも騒がしいナチとソ連の検閲下で発禁書を大量処分する日々レア本集めが密かな愉しみ“本を燃やす者は人も燃やす”書物から聞こえる有象無象の…

「砂時計」

ダニロ=キシュ著ユダヤ系セルビア作家複雑な入れ子構造と寓意性冒頭”ルビンの壺”或いは砂時計は父と子の顔を挟む”戻りえぬ時間”の象徴か?アウシュヴィッツに消えた父の遺した手紙・旅の絵・証人喚問・狂人の覚書円環する記憶と空間をタルムードが導く”東欧…

「女であるだけで」

ソル=ケー=モオ著マヤ語メキシコ作家少数先住民族マヤ語を駆使したフェミニズム文学奴隷売買で男に買われ望まぬ配偶者にされた先住民の女が彼を殺害“女であるだけで”“先住民族であるだけで”犯罪も不幸も環境整備で防止可能日本の貧困や虐めにも共通するの…

ナギーブ=マフフーズ読破記念総書評

アラブ及びエジプト唯一のノーベル文学賞受賞者イスラムの哀愁漂う喧騒な現代カイロを中心としたリアリズム小説遠い日本の村社会や後進的ながら由緒ある伝統を余す所なく描く代表作「バイナル=カスライン」”カイロ3部作”は激動の近代を彫刻の様に塑像した傑…

「暮れなずむ女」

ドリス=レッシング著ノーベル賞イギリス作家イラン出身ジンバブエ在住フェミニズム文学の火付け役子育て終了後の「女の一生」を描く世界食糧会議に出席する初老女性は若い貴婦人と行動一昔前の女性社会と途上国のリアルとフェミニズムの光と闇を写実的文体…

「サマータイム」

ジョン=マクスウェル=クッツェー著ノーベル賞南アフリカ作家自伝3部作3部世界的作家になるまでの裏側を著者が死後に評論出版されるという仮設定アトウッドと並び2度ブッカー賞を受賞した著者の3度目の候補作最大で25回も推敲される無駄のない文体と個性的…

「青年時代」

ジョン=マクスウェル=クッツェー著ノーベル賞南アフリカ作家自伝3部作2部大学時代〜IBM英国本社勤務〜小説家クッツェー誕生までの半自伝ノーベル賞受賞理由”アウトサイダーを様々な文学的手法で描写した”を体現した1冊青年は斜陽の英国で”異端者”扱いに苦…