MarioPamuk’s diary

海外文学と学術書の短文感想&忘備録

Entries from 2021-07-24 to 1 day

「蛍・納屋を焼く・その他の短編」

村上春樹著“蛍”「ノルウェイの森」ダイジェスト“納屋を焼く”アルジェリア人の納屋専門の放火魔の走馬灯“小人の踊り”恋の叶う踊りと引き換えに凶夢を提供する小人“めくらやなぎと眠る女”虚な日常に潜む幻想体験“三つのドイツの幻想”ベルリン現代史への追憶

「響きと怒り 下」

ウィリアム=フォークナー著 ノーベル賞アメリカ作家 南北戦争後に北部が繁栄する一方で南部は暴力が支配した妹キャディの処女性を巡り決闘・自殺と凋落する一族第1章と第2章が難解だが3章と4章で伏線回収同じテーマを4人の人物に語らせ物語に奥行きを与える…

「響きと怒り 上」

ウィリアム=フォークナー著ノーベル賞アメリカ作家ヨクナパトーファサーガの一角コンプソン一族の盛衰を”意識の流れ”で大成した第1章 1928/4/7 痴呆の末弟の視点第2章 1910/6/2 自殺予定の有能な長兄の視点第3章 1928/4/6 親不孝な次男の視点第4章 1928/4/8…

「砕かれた四月」

イスマイル=カダレ著アルバニア作家血の儀礼と掟(カヌン)残るアルバニア高地村社会3月積年の復讐殺人を遂げた男“悪法も法なり”“目には目を歯には歯を”村の掟で1ヶ月の猶予と休戦後の”復讐の権”を付与ハネムーンでその因習に驚嘆する美人妻4月砕かれる余生に…

「地獄で温かい」

バングラデシュ3作家9短編集インド独立→東パキスタン成立→バングラデシュ独立短期間に3度の政変で紛争や過去最多の難民発生村•河•鉄道•戦争•紛争•開放•女•妻•母•記憶•夢•歴史のテーマ別短編美しいベンガルの自然を背景に宗教迫害や戦争孤児の生々しい実情が…

「ある放浪者の半生」

ヴィディアダハル=スラヤプラサド=ナイポール著ノーベル賞トリニダード=トバゴ作家“サマセット”の名を与りモーム意識で自分探し優秀ながら”半端な半生”の放浪者インド→イギリス→南アフリカ→ポルトガル第2章の題名が”第1章”生きる意味を見失いがちな現代人…

「奥のほそ道」

リチャード=フラナガン著オーストラリア(タスマニア)作家ブッカー賞受賞作泰緬鉄道開通計画被爆国を宣う前に侵略国の日本日本兵捕虜の強制労働を帰還した名誉軍医が回顧血肉塗れし線路の彼方は芭蕉吟ずる自由への”奥のほそ道”終戦後も倫理道徳感が崩壊し日…

「ヒジャーズの贈物」

ムハンマド=イクバール著パキスタン詩人アラビア語とウルドゥー語の創作イギリス支配の屈辱と怒りをクアルーンの詩句を謳う”贈物”ヒジャーズ(聖地メッカ・メディナ)巡礼を夢見た”パキスタンのガンディー”茫影のオスマン帝国と搾取極まるインドのキラーファ…

「莫言神髄」

莫言の作品をほぼ全訳した訳者が語る莫言文学の”神髄”ノーベル賞講演と創作秘話・解説・評論“中国のガルシア=マルケス”心理描写を削り情景描写で描く”幻覚的リアリズム”想像力と世界観で右に出る者はいない共産党礼讃社会で川端康成「雪国」を読んで犬もお…

「復活祭前日」

ゾヤ=ピールザード著アルメニア系イラン作家女性から見たイスラーム社会を繊細に描く“アパート”家庭的な妻を望む夫とのすれ違い“ハーモニカ”保守家庭キャリア妻の苦悩“柿の渋み”近代富裕層と伝統イランの併存“復活祭前日”アルメニア系視点でイランを描く実…

「コモンセンス」

トマス=ペイン著イギリス思想家“自由か死か!独立は常識(Common sense)である”現超大国アメリカもかつては貧しい植民地イギリス人にしてアメリカ独立革命の旗手晩年フランス革命政府の国民公会議員感情論ではなく具に国際情勢・歴史・経済力を分析し独立提…

「女のいない男たち」

村上春樹著6短編集共通項は”連れ添った女を失った男たち”であること前半4作は個人的にも秀作と思ういつも通り読みやすい文と構成ながら想像を刺激し安易に読ませない余韻を残す“ドライブ マイ カー”“イエスタデイ”“独立器官”“シェエラザード”“木野”“女のいな…

「あるデルスィムの物語」

クルド文学10短編集“世界最多3000万の亡国民族”クルド今も”山岳トルコ人”と存在否定1937年 デルスィム虐殺サビハ=ギョクチェン国際空港国父アタテュルクの養女にして”クルド爆撃の英雄”に冠する凄惨な民族と文化の迫害を記録した”ある物語”埼玉県蕨市は在日…

「アルプスの少女ハイジ」

ヨハンナ=シュピリ著スイス作家2冊収録650P粗筋はほぼ同じだがアニメと違い原作は宗教色と当時の経済教育環境がリアル天真爛漫なハイジ不器用だが優しいお爺さん羊飼いペーター車椅子のお嬢様クララ美しいアルプスで愛おしいキャラが知恵と友情と愛を育んで…

フョードル=ミハイロヴィチ=ドストエフスキー全26冊読破記念総書評

ロシア文豪5大長編は世界文学史に燦然と輝く哲学的深淵・サスペンス・複数主人公・個別独白・ポリフォニー・都市論・往時の経済観・ロシア革命予言彼やフローベールを頂点に19世紀末で文学は1度完成したと思う私は「悪霊」推し 個人的ランキングは以下の通り…

「エルサレム」

ゴンサロ=マヌエル=タヴァレス著ポルトガル作家捻れた健常者と真っ直ぐな障害者”恐怖史”研究を著す医師監視下の統合失調症妻淫蕩の殺人兵怯懦の孕み仔権力者の父記憶が紡ぐ“閉ざされた王国”ゲオルグ=ローゼンブルグ精神病院韜晦軽蔑破滅姦通瑕疵共生の楽…

「未成年 下」

随所に未熟なロシア帝国と西欧礼賛が対比され主人公の”未成年さ”と重なる主観的独白ゆえ難解富豪志望ながら借金・賭博・ロリコン・女性に溺れる主人公徐々に真実が明かされ主人公も成長後半は怒涛の展開農奴解放令で資本主義と貧困化が加速後のソ連の社会主…

「未成年 上」

フョードル=ミハイロヴィチ=ドストエフスキー著ロシア作家5大長編の手記形式サスペンス実父・実母・養父に両親コンプレックスを抱え富豪ロスチャイルドに憧れる主人公鍵は手紙有力公爵の秘書となり遺産相続問題や公爵娘と恋に落ちる中で現在と過去の2つの…

「イングランド・イングランド」

ジュリアン=バーンズ著イギリス作家英国的50要素から成る”精巧な英国レプリカ”イングランド=イングランド開園!本物以上のワイト島の楽園に対し価値を失いゴースト国に成り下がる本国ブリテン島立案者の富豪と魅力的なスタッフが”英国”を最高に礼賛し饒舌…

「メダリオン」

ゾフィア=ナウコフスカ著ポーランド作家8短編集ドイツ以上の強制収容所数人間の脂で作る石鹸悍ましい戦禍を伝える戦争文学“シュパンナー教授” “底” “墓場の女” “線路脇で” “ドゥヴォイラ・ジェロナ” “草地(ヴィザ)” “人間は強い” “アウシュヴィッツの大人た…

「アカシアは花咲く」

デボラ=フォーゲル著ユダヤ系ポーランド作家イディッシュ語創作を含む3中編ナチス興亡前後をシュールレアリスム的コラージュで語る情緒的表現と物質的表現が混淆灰色で統一した世界なのに色鮮やかヴィアン好きに推奨“アカシアは花咲く”“アザレアの花屋”“鉄…

「東京奇譚集」

村上春樹著東京が舞台の霊体験に纏わる5中編現代社会の孤独を描く「聊斎志異」いい意味で印象が薄く絶妙な余韻を残す相変わらずジャズに詳しく扱う職が多種多様“偶然の旅人”“ハナレイベイ”“どこであれそれが見つかりそうな場所で”“日々移動する腎臓のかたち…

「風の巻く丘」

マリーズ=コンデ著フランス領グアドループ作家舞台はキューバ→グアドループ→ドミニカ黒人・白人・インド系と混血社会と奴隷貿易が軸のカリブ版「嵐が丘」虐げられた男は金と復讐を携えて帰国「嵐が丘」に独特なアフリカ呪術・魔術文化を加えポストコロニア…

「嵐が丘 下」

復讐に燃える成金ヒースクリフ供述解雇する女中ネリー孤児より郷紳を選んだお嬢様キャサリン恋敵に妻と娘を奪われるエドガー復讐の駒と知りつつ本気で恋する娘イザベラ冷徹な復讐の傍らでキャサリンの死に苦しむヒースクリフが印象的どの人物にも同情できな…

「嵐が丘 上」

エミリー=ブロンテ著イギリス作家“愛憎”憎たらしく愛すべき言葉愛が憎悪に変わると復讐になる舞台は“嵐が丘”の2つの屋敷拾われお嬢様に恋し若旦那には虐待される孤児彼と結婚したお嬢様に失望し逃亡ー数年後ー金と憎悪を蓄え嵐が丘に帰還愛した者と憎んだ…

「エリザベス・コステロ」

ジョン=マクスウェル=クッツェー著ノーベル賞南アフリカ作家架空の世界的作家エリザベス=コステロ著者の分身が彼女を想像上で断片的に講義し更に1冊の批評に纏めるメタに次ぐメタ構造著者の文学論・思想哲学が見られ物語的にも面白い自身への徹底批評貫徹…

「案内係」

フェリスベルト=エルナンデス著ウルグアイ作家中短13編ガルシア=マルケスやシュペルヴィエルが絶賛した元ピアニストの”奇人作家”目が光る男透視能力発現者最強の嘘泣き営業マン夢に浮かび水に沈む家ボルジア家の美女ルクレツィアのタイムスリップ独特な幻…