MarioPamuk’s diary

海外文学と学術書の短文感想&忘備録

Entries from 2021-07-07 to 1 day

「シブヤで目覚めて」

アンナ=ツィマ著チェコ作家“渋谷とプラハの二都物語”開幕!NARUTOゴスロリ村上春樹そして謎の大正作家”川下清丸”カレル大学日本学部髪色ピンクの純文学女子と秀才男子僅かな資料を基に作家を追う彼女に”幽霊”が目覚め渋谷を彷徨う日本文化を礼賛皮肉するサ…

「ソビエトミルク」

ノラ=イクステナ著ラトヴィア作家現在も人口の6割がロシア語話者のラトヴィア医師ながら民族抑圧に心身ともに苦しむ母貧困と迫害で教育も授乳も施されず母国の名すら知らない娘2人の回想を交互に展開しソ連支配の不条理を強調国境を跨ぐ“人間の鎖”を紡ぎ解…

「ペスト」

アルベール=カミュ著ノーベル賞アルジェリア系フランス作家ナチスに侵されゆくパリをペストに侵されゆくアルジェリアの街オランに重ねた寓意小説天災vs人災一次災害は疫病でも二次災害はパニックの点さコロナと同じ恐れ惑う人民の姿と心理状態を巧みに描き…

「アランフェスの麗しき日々」

ペーター=ハントケ著ノーベル賞オーストリア作家初ハントケ登場人物が2人だけ舞台はアランフェステンポ良く心情描写が深いすれ違っているようで交わっているような絶妙な男女の会話性や愛についてのティータイムが唯一無二の”麗しき日々”という日常を醸して…

「幣原喜重郎」

類稀な英語力+外交力+平和思想戦前は外相戦中戦後は首相高潔な志で欧米と繋がりアジアと和した幣原喜重郎だが虚しくもその外交努力は関東軍や陸軍の前に崩れていく国連脱退表明した松岡洋右も天皇も外務省も近衛文麿も反戦主義外交の可能性と限界に挑戦した…

「塵よりよみがえり」

レイ=ブラッドベリ著アメリカ作家SF・ファンタジーの巨匠一同に会するは“ひいが千回つくおばあちゃん”とその不思議な力を持つ一族たち世界史の有名人や文化が散りばめられたハロウィンナイトファンタジーながら”普通の子”をサーガの目撃者に記録者に主人公…

「朝鮮半島史」

生殺与奪権が常に中国次第と難しい歴史を持つ朝鮮加えて近代以降は日本にも本格的に侵略熊の頻出する箕子朝鮮や檀君神話は典型的な北方狩猟民族の”北狄”農民化で科挙文治主義両班やハングルなど独特だが”小中華”の域を出ない読めば外交や科挙など今も昔も歴…

「ツァラトゥストラ 下」

“人類への最大の贈り物”と自薦する1冊別著「アンチキリスト」ではキリスト教は清貧を肯定した”悲劇の誕生”だったと痛烈に批判一方で本書ではキリスト教に代わる処世論に”超人”を提起積極的孤独や個人主義など現代の生き方を模索“人生は自分で決めろ!”と言わ…

「ツァラトゥストラ 上」

フリードリヒ=ニーチェ著ドイツ哲学者“神は死んだ”この一言で24歳で教授になった彼は学界を追放硬派な論文調ではなくツァラトゥストラ(ゾロアスター)主人公のアフォリズム的小説形式終末論と“宗教と神”の存在を否定し永劫回帰と”超人”たることを説く難しく…

「ゴプセック/毱打つ猫の店」

オノレ=ド=バルザック著フランス作家内容は悲劇なのに文面は喜劇個性的な人物を“ゴプセック”貴族社会を裏で牛耳るが客本位の高利貸し踊り踊らされた退廃貴族社会を滑稽に描く“毱打つ猫の店”変人画家に惚れる美女は周囲の反対を他所に恋の沼に嵌り彼の秘密…

「性の歴史」

古代〜現代の”性の話”100選70の体位と700の性技を記したインドの”カーマスートラ”婚外性行をも奨励したナチス“レズ”の語源レスボス島の女詩人サッフォードイツでは”生物の授業”でコンドームを実際に用い避妊を学ぶ性の歴史と知識は社会に出てから学べない日…

「古典について」

日本は江戸から世界で最も海外文学を嗜む文化コンプレックス民族確かに大学では国文学部は少数派内容も洗練され仏教も漢字も中国やインドのそれより原型を留める仮名文字など日本固有の発明はまず漢学習得ありき荻生徂徠伊藤仁斎伊藤東涯 安積澹泊 本居宣長…

「帰還」

ヒシャーム=マタール著リビア作家カダフィ大佐vs外交官一家40年の独裁政権が”アラブの春”で呆気なく崩壊したリビア巧みな経済と外交でバブル期日本の所得水準に並んだ反面で政権批判は弾圧外交官の父は消息不明に“帰還”さえ覚束ない中で父と自由を追う息子…

「中国の歴史10 ラストエンペラーと近代中国」

近代中国はドラマだ“お久しぶりです校長!10年ぶりですね”“お前は教頭だ!今も私の部下だ”黄埔軍官学校”校長”蒋介石同”教頭”周恩来1936 西安事件敵は日本“宣統帝”愛新覚羅溥儀と張学良の涙宋家三姉妹の恋皇帝制度は一党独裁へ巨龍よ青天を衝け

「ダブリナーズ」

ジェイムズ=ジョイス著アイルランド作家“半身不随もしくは中風の都市”100年前のダブリン現在は欧州随一の平均所得を誇るが独立前は酒臭い退廃都市「ワインズバーグ オハイオ」同様に連作短編で街の全貌と人々の交錯を立体化宗教や性や風俗と独特なケルト文…

「メッカ」

イスラーム最大の聖地メッカ8のミナレットと9のドームを持つカーバ神殿←iPhoneでも固有の絵文字が存在する程ムスリムには日常的な存在(変換#[カーバ神殿]でお試し下さい)部族社会の個人尊重主義が都市的宗教に進化したので実は非常に近代的聖地メッカからイ…

「渡り鳥と秋」

ナギーブ=マフフーズ著ノーベル賞エジプト作家1952-1956 戦後エジプト”秋の時代”ムハンマド=アリー朝崩壊ナセル台頭スエズ運河国有化第2次中東戦争青年貴族官僚が革命で没落その過程を政治史と偉人を交えずカイロ3部作同様に民衆視点で描く筆力渡り鳥は漠…

「火葬人」

ラジスラフ=フクス著チェコ作家第二次世界大戦前夜のチェコ火葬とチベット仏教を神聖視する”火葬人”ナチスに共感し火葬によるユダヤ人淘汰を天職と感じ始めた火葬人救済の魂は荼毘と共にやがて愛するユダヤ系の妻や子をも手に掛けてゆく平穏の中に散りばめ…

「列車と愛の物語」

アレグザンダー=マコール=スミス著ジンバブエ作家過ぎゆく“世界の車窓から”愛を探す旅へスコットランド〜イングランドの列車偶然コンパートメントに居合わせた壮年若年4人の男女は恋愛体験を語る振り返れないほど速く進む日常人生という列車の愛は乗り過ご…

「複眼人」

呉明益著台湾作家台湾神話×環境問題×ファンタジー人口抑制で次男以降は鯨になる運命が待つ島台湾と島に大量の海洋ゴミが漂着し汚れる自然欧米人が訪れた先で警告するかの様に謎の精霊”複眼人”が現れる精霊の目的とは?台湾原住民文化と言語を現代の自然科学…

「テロ」

フェルディナント=フォン=シーラッハ著ドイツ作家・弁護士“テロ”フランス革命政権の”恐怖”政治が語源飛行機ハイジャックのテロリストを撃墜した軍人7万の市民を守る英雄か?164人の乗客の命を殺した罪人か?所謂”トロッコ問題”を法廷ドラマで再現あなたは2…

「リカルド・レイスの死の年」

ジョゼ=サラマーゴ著ノーベル賞ポルトガル作家詩人フェルナンド=ペソアまたの名を医者リカルド=レイス70の名を駆使した国民的詩人を”片方の生存時に片方が死亡”するドッペルゲンガー的に描く幻想文学美しいリスボンの景色とサラザール等の独裁政権期を鮮…

「ワインズバーグ オハイオ」

シャーウッド=アンダーソン著アメリカ作家架空の街オハイオ州ワインズバーグ“手から機械へ”小さな街にも産業革命の波は訪れる短編連作でその”静かな激動”と飲まれゆく人々を描くその姿はIT革命に沸く陰で沈む現在のラストベルトに重なる消えゆく街の消えな…

「転生夢現 下」

莫言著 中国ノーベル賞作家共産党の農地収奪に翻弄された50年を魔術的リアリズムの世界に昇華人:地主(走資派)として銃殺驢馬:元妻が小作人に寝取られるも猛馬の活躍牛:去勢と戦う暴牛豚:乳の独占で成長した”猪の王”犬:側犬として地主一族崩壊の行末を傍観猿:…

「転生夢現 上」

莫言著中国ノーベル賞作家“転生したら畜生だった件”建国〜改革開放までの山東省銃殺された地主は閻魔大王の手違いで驢馬→牛→豚→犬→猿→人に輪廻転生転生ごとに地主・農民・政府と語りの視点を変え多様重層な戦後中国世界を浮彫にする独特な中国社会を各転生と…

「デイジー・ミラー」

ヘンリー=ジェイムズ著アメリカ作家ヨーロッパに来たアメリカの美少女に恋をするイギリスの青年文化の違いや言葉遣いに戸惑うも恋する青年と奔放な少女マラリアで猖獗極まるローマを2人で過ごすが、、?イギリスとアメリカの国民性を象徴する男女は文化摩擦…

「透明な人参」

莫言著中国ノーベル賞作家ノーベル賞授賞式講演+6短編全て魔術的リアリズム作品“透明な人参”黒垓子の孤独を寓意“花束を抱く女”魔術的ホラー“良医”田舎の呪術医療“お下げ髪”女の断髪と恋愛を模した怨霊“鉄の子”鉄人体の世界“金髪の赤ちゃん”夫の淫夢vs妻の不…

「死者の百科事典」

ダニロ=キシュ著ユダヤ系セルビア(旧ユーゴ)作家死と生と愛に関する短編10集“魔術師シモン”“死後の栄誉”“死者の百科事典”“眠れる者たちの伝説”“未知を映す鏡”“師匠と弟子の話”“祖国のために死ぬことは名誉”“王と愚者の書”“赤いレーニン切手”“ポストスクリプ…

「あらゆる名前」

ジョゼ=サラマーゴ著ノーベル賞ポルトガル作家匿名・筆名・改名情報化社会において”あらゆる名前”はまた”あらざる名前”でもある戸籍上の名前の生と死を司る戸籍登録局に勤める男“あらゆる名前”の中で無性に普通の老女が気になる男それは鬱屈した現代の”もう…

「停電の夜に」

ジュンパ=ラヒリ著インド系アメリカ作家インド系移民に留まらない多民族国家アメリカの繊細な違和感と共感を呼ぶ短編9集 停電の夜には見えないものが見えてくるネオンが奪っていた夜空は宝石のような星座たちを纏う 停電の夜には身を密めていた夢たちが現を…