MarioPamuk’s diary

海外文学と学術書の短文感想&忘備録

Entries from 2021-07-03 to 1 day

「ダスクランズ」

ジョン=マクスウェル=クッツェー著ノーベル賞南アフリカ作家“ヴェトナム計画”ヴェトナム戦争の政治利用を謀る青年記者の苦悩“ヤコブス=クッツェーの物語”白人vsコイ・サン族の復讐劇を4人のクッツェーが紡ぎ語る帝国主義的暴力の蹂躙する様を透徹した文体…

「中国の歴史9 海と帝国」

“中華から中国へ”鄭和・王直・鄭成功・倭寇・宣教師東アジアでの”大航海と大海賊”時代の経験元の海上交易は明清で活発化し世界に華僑が離散だが飛躍的な人口増加と食糧確保は手形や株式市場など近代金融システムを整えたイギリスとの貿易摩擦を産んだ列強の…

「宿命の交わる城」

イタロ=カルヴィーノ著イタリア作家タロットをモチーフにキングや騎士などを1枚ずつ召喚して設定を広げていく有象無象のタロットを用意し天衣無縫の想像力で物語に変えていく珍しいジャンルオチや起承転結は特にないが著者の博識な中世西洋学による古典世界…

「暗殺教団」

シーア派イスマーイール教団のさらに分派ニザール派に起源を持つ暗殺教団”山の老人”大国ファーティマ朝を建国しながらスンナ派に敗れつつも現代まで脈絡は途絶えずまたの名を”アサシン(ハッシャシーン)”ハサン=サッバーフが組織し十字軍やセルジューク朝の…

「オスマン vs ヨーロッパ」

モーツァルト“トルコ行進曲”ピアノソナタ第11番第3楽章ヨーロッパを震え上がらせたオスマン帝国の楽団はなぜ西欧近代で親しまれたか?実態はイスラム国家でもトルコ人国家でもなく寧ろキリスト教徒中心の国家だった宗教的寛容性で世界帝国に君臨した故に民族…

カイロ3部作総書評

原題「バイナル=カスライン」2段組ハードカバー計1500Pの超大作アラブ唯一のノーベル文学賞ナギーブ=マフフーズの代表作アル=カーヒラ(勝利の都)カイロスエズ運河開通後に英領戦間期の独立運動を市民視点で描く緻密な生活様式や当時のナショナリズムの様…

「夜明け」

ナギーブ=マフフーズ著ノーベル賞エジプト作家カイロ3部作3幕1935-1944第二次大戦勃発ファシズムの脅威の中ハサン=アルバンナーはムスリム同胞団を結成伝統に固執する親世代から意思決定で道を拓く子孫世代“欲望の裏通り”は”夜明け”を迎え”張り出し窓の街”…

「欲望の裏通り」

ナギーブ=マフフーズ著ノーベル賞エジプト作家カイロ3部作2幕1924-1927半独立後ワフド党ザグルールを首相に戴くがスーダン領有で縺れ辞職西洋派vsイスラム回帰派スパイ嫌疑や恋慕不貞と政争に巻き込まれる資産家一族国家とは?家族とは?宗教とは?全てはア…

「張り出し窓の街」

ナギーブ=マフフーズ著ノーベル賞エジプト作家カイロ3部作1幕1917-1919第一次大戦の隙を狙いサアド=ザグルールが反英独立運動開始カイロ旧市街”張り出し窓の街”のバイナル=カスライン(宮殿通り)の資産家銃弾に斃れる一族の子エジプト現代が幕を開け一家の…

「傾城の恋/封鎖」

張愛玲著 香港作家文学革命を率いた親戚が李鴻章という名門女性作家の短編3集何も著者がモデル村を扱う魯迅と対照的に上海や香港など都市や租界がメインで内容も恋愛中心とドラマティック“傾城の恋”“封鎖”“戦場の香港”“囁き”日本軍の侵略に抗い翻弄される上…

「科学史・科学哲学入門」

“科学”は必然的に”西洋近代”のそれを指す中世最高の技術大国インドや中国では科学が興らなかった自然を人格化し合一を図る東洋自然を機械化し支配を図る西洋一神教と哲学が自然を暴いた近代科学弾劾されたガリレオも教皇の弟子だった科学史と科学哲学史を詳…

「続審問」

ホルヘ=ルイス=ボルヘス著アルゼンチン作家・評論家これぞ知の巨人地場の南米に加えイスラムやヨーロッパまで詩や書物の1Pまで誦じたボルヘス時空間は絶対的でないと喝破した特殊相対性理論文学でもドストエフスキー等で頂点を極めた写実主義から魔術的リ…

「カールの降誕祭」

フェルディナント=フォン=シーラッハ著ドイツ作家狂気と殺人に関する短編3集“ドイツではクリスマスに最も殺人が多い”会いたくもない親戚に会い鬱憤が爆発する為だ規律ある国だからこそストレスも溜まりはみ出し者に地獄が待つ“パン屋の主人”“ザイボルト”“…

「ブッデンブローク家の人々 下」

トーマス=マン著 ノーベル賞ドイツ作家北杜夫「楡家の人々」のモデル嫁ぎ先と共に”諸国民の春”で破産起(カリスマ+啓蒙思想)承(傲慢と偏見への堕落)転(優秀な兄に頼り驕る勘違い家族)結(一族の破滅)芸術=退廃マンの子もみな芸術家を目指し失敗孫が虚しく奏…

「ブッデンブローク家の人々 中」

トーマス=マン著 ノーベル賞ドイツ作家商才溢れる大黒柱の父の崩御後継となる優秀な兄と功績が認められ市の名誉に服す一家一方で金・地位・政略結婚に固執し横暴になり始めた弟妹社交界・芸術・音楽・宗教に溺れ退廃する一族波風吹くかつてのハンザ同名都市…

「ブッデンブローク家の人々 上」

トーマス=マン著ノーベル賞ドイツ作家自身の生家モデルに名家の勃興〜繁栄〜没落を描く名家4代のサーガノーベル賞受賞理由は主に本著の評価人間や国家の栄枯盛衰を分析し共通の普遍性を暴いたリューベック新興ブルジョワ成金ブッデンブローク家その崩壊の序…

「遺伝子 下」

2003年ヒトゲノム解読完了応用が進むアイスランドにダウン症の子供はいない妊娠初期で元凶の遺伝性疾患を排除する為だ1/16の子供が体外受精で誕生する現代IQや外見を事前に操作する”デザイナーベイビー”等の”新優生学”も既に歓迎され導入が進む今後はAIより…

「遺伝子 上」

1960年代風邪に似た症状を持つウィルスを確認学名”コロナ”と命名“新型コロナ”は遺伝子レベルの進化版RNAメッセンジャーに干渉しDNAをも支配するアミノ酸→タンパク質創生その成分は塩基4種(TACG)の数億に及ぶ二重螺旋構造遺伝型+環境+誘因+偶然=生物の表現型“…

「ペネロピアド」

マーガレット=アトウッド著カナダ作家古代ギリシアは男権社会「女の平和」もSEXストライキが題材通常は英雄のオデュッセウスを拷問レイプ犯に仕立て女神達の勇姿を描く女達の愉快な復讐の時間フェミ×神話×詩×風刺”12の偉業”を”12の女中”に見立て妻ペネロペ…

「笑いと忘却の書」

ミラン=クンデラ著チェコ作家個別の7短編が連作した1つの多重奏共通テーマは”笑い”と”忘却”人間は1日の9割の言動を忘れる“雑音”もリズムを取れば”音楽”になる忘れたい事忘れたくない事“わらい”にも色々ある笑い嗤い咲い微笑い哂い呵い笑いと忘却の輪廻が人…

「ホワットイフ Q2」

海から海水を抜くとどうなるか?そしてその海水を全て火星に送ったらどうなるか?1mol(分子の大きさを表す極小単位)サイズの1mol(モグラ)が実在したら?ウォーターハンマーとは?大西洋を跨いでロンドン〜NY間をレコブロックの橋で繋いだら?科学の面白さを…

「ホワットイフ Q1」

“ブラックホール”実はSF小説から生まれた言葉物理学者なら”過重力崩壊性歪曲天体”という味気ない名前だったかもしれない有り得ないことを想像し創造していくのもまた科学“光速で野球をしたら?”多種多様のあり得ない質問を元NASA科学者がシミュレーションし…

「ザンジバルの笛」

ザンジバル島ザンジュ(黒人奴隷)人口70%に肖る島名ポルトガルを退けたオマーン王国が支配しインド系・アラブ系を通じて象牙・香辛料・奴隷を主力に季節風貿易で繁栄したイギリス支配を経てザンジバル革命でタンザニアと合併ストーンタウンを中心にザンジバル…

「不滅」

ミラン=クンデラ著チェコ作家ゲーテがヘミングウェイがベートーベンがそしてクンデラが時空を超え語り合う唯一の共通項は美しき普遍性”不滅”哲学・文明批評・愛・芸術・文学・音楽真に色褪せないものとは何か?姉妹の切ない愛を画家の初々しい愛を声になら…

「存在の耐えられない軽さ」

ミラン=クンデラ著チェコ作家人生は歴史と一蓮托生“プラハの春”挫折”存在の耐えられない軽さ”の自由・命・歴史・言葉重苦しい時代こそ軽妙に秘密警察の告発で農家へ没落した医者と妻と愛人たちの行方こんな時代の夢と哲学男女4人の紡ぐ性と愛の四重奏(カル…

「可笑しい愛」

ミラン=クンデラ著チェコ作家エロスに皮肉る短編7集著作全般に共通の音楽的かつ抒情詩的リズムは短編にも嵌る“シンポジウム”“誰も笑おうとしない”“エドワルドと神”“ヒッチハイクごっこ”“ハヴェル先生の20年後”“永遠の欲望という名の林檎”“老いた死者は若い…

「生は彼方に」

ミラン=クンデラ著チェコ作家チェコ時代の半生がモチーフの半自叙伝小説祖国に捧ぐ鎮魂歌革命に捧ぐ狂詩曲詩作に捧ぐ奇想曲父母に捧ぐ聖譚曲恋人に捧ぐ哀歌穢土に捧ぐ交響曲芸術は究極的に音楽に収斂する鍵盤の残響よ詩人と音楽の街プラハにて鎮まりたまえ”…

「冗談」

ミラン=クンデラ著チェコ作家フランス亡命前の処女作メイン1人サブ3人の主人公を立て各々の人生の交錯を描くプラハの春前後のチェコスロヴァキア共産党員の絶対的支配の下で軽い”冗談”な言動が男の人生を奪う愛は憎悪と表裏一体同調圧力と言論の自由なき世…

「別れのワルツ」

ミラン=クンデラ著チェコ作家生殖と亡命を我流の哲学に適合させ文学に昇華“愉しい寄り道”を至上とするクンデラ文学の真骨頂不妊治療のため湯治に来た名トランペット奏者と美女別れ際こそ心踊るワルツを踊る様に軽妙な文章と離別しゆく重層なテーマが交錯す…

「論理哲学論考」

ルートヴィヒ=ヴィトゲンシュタイン著オーストリア哲学者ハイデガーと並ぶ20世紀の巨頭<論考以前>思想=世界<論考>言語=世界数学+論理学難問ほど回答は美しい140Pで2000年の哲学論争に一応の決着を付けた1冊指示代名詞を辿るのが肝ゆえ小説好きは意外と読…