MarioPamuk’s diary

海外文学と学術書の短文感想&忘備録

「この世の王国」

アレホ=カルペンティエル
キューバ作家
脱奴隷社会+ハイチ独立史を擬獣化や神話化で描くマジックリアリズム
最も有名な独立指導者トゥサン=ルヴェルチュール以外の偉人が全登壇
無文字文化の現地人は絶滅したが土着の呪術的伝統と西洋文化が融合したブードゥー教の描写が興味深い

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「フランス組曲」

イレーヌ=ネミロフスキー著
ウクライナ出身ユダヤ系フランス作家
著者が執筆途中ナチ党に逮捕された60年後に3/5章が未完状態で発刊
第二次大戦ナチ制圧下フランス版「戦争と平和
敵味方・年齢性別・階級を問わぬ個々の兵士や住民の喜怒哀楽
戦争の残虐性と荒廃する領土を描く大作

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素晴らしい傑作
個人的にナチ支配下のフランスを扱った作品でこれ以上の作品は読んだことがない

音楽的な文と構造は文字通り”組曲
第1部:”6月の嵐”…ドイツ侵攻と脱出
第2部:”ドルチェ”…占領後のフランス田舎町

5部作なので想像でしかないが多分
第3〜5部はフランス都市部と戦いから解放までと推測

「私がもらった文学賞」

トーマス=ベルンハルト著
オーストリア作家
著者が国内中心に受賞した9つの文学賞受賞時の感想をぶっちゃけ
“カントメダルを受賞したとて自著と根拠薄弱にカントを紐付ける等バカらしい”
皮肉と風刺の作家だけに巻末の受賞コメント一覧と比較すると本音と建前のギャップが凄い

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「最後の恋人」

残雪著
中国作家
蟷螂の死骸の栞=カフカ「変身」の虫?
流血のゴム農園=赤いゴム政策?orブラジルやマレーシアの搾取産業?
”何かの寓話だが何の寓話かは曖昧な独自の不条理世界”
サラリーマン社会と若干の幻想
服飾会社の本好き営業課長と愉快な身内話
複数視点で進む中国近代化の郷愁

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「呪い卵」

#一日一編
8作目
チヌア=アチェベ著
ナイジェリア作家
文字がなく口承文化のみのニジェール川流域農村
伝統社会において市場は最先端の井戸端会議所
では突然の疫病流行で誰もいなくなり閑散とした様子を誰が記録するのか?
折しもキリスト教に帰依した少数派現地人の視点で描く実験的短編

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「太平洋の防波堤」

マルグリット=デュラス著
フランス領インドシナ出身フランス作家
半自伝
植民地ドリームを追いカンボジア移住した白人一家
しかし役人に騙され破産し現地富裕層の婿入りに縋る母
抵抗し脱出を試みる娘と弟
植民地下階級の描写が上手い
白人優越主義と共に決壊する”太平洋の防波堤”

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前作「愛人」と同じ設定で反対の粗筋
要は書き足りない箇所を蒸留した作品

支配者と被支配者の二項対立を重層的に進めることで植民地の白人間や現地人の微細な階級に正確に描くことに成功している
人は見下す時に最も正直になる
生得的優越感を持つ白人の母が狂奔する過程がリアル
実体験ゆえの説得力

「小さな黒い箱」

#一日一編
7作目
フィリップ=キンドレッド=ディック著
アメリカ作家
パンドラの箱から災厄が飛び出した後に小さな希望が残るという”
ディストピア世界
カルト教祖が台頭し対抗策に”禅思想”に通ずる諜報員が陰謀阻止を目論む
教祖の話だが現代では主役を変えれば戯画的に受け取れる

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